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 2012年4月26日東京高裁は、ケンコーコム株式会社などが提訴していた医薬品ネット販売の案件に関し、一審の判決を覆し、第三類医薬品だけでなく第一類・第二類医薬品についてもネット販売できる権利(地位)を求める原告側の主張を認める判決を下しました。
 新薬学者集団は判決が、医薬品が安全に用いられ国民の健康維持に貢献することに逆行する重大なものであるため、抗議声明を発表しました。



【声明】

医薬品ネット販売についての東京高裁判決に抗議します
薬事法の条文にネット販売規制を盛り込むことを厚生労働省に要望します

 

2012年5月21日

新薬学研究者技術者集団

 2012年4月26日、東京高等裁判所第24民事部は、ケンコーコム株式会社と有限会社ウェルネットが国・厚生労働省に対して起こした「医薬品ネット販売の権利確認等請求控訴事件」について、一審の東京地方裁判所が下した判決を覆し、第三類医薬品だけでなく第一類・第二類医薬品についてもネット販売できる権利(地位)を求める原告側の主張を認める判決を下しました。
 今回の東京高裁の判決では、薬事法施行規則そのものがネット販売を規制する権限を有しているのか、また改正薬事法の条項の中にネット販売を規制する根拠となる委任の規定があるのか否かの議論のみが行われ、「医薬品とはどのような商品か」「憲法25条に基づき医薬品の健康被害から国民をいかに守るべきなのか」という議論がほとんどされず、判決文にもその旨が盛り込まれていません。
 医薬品は、常に副作用(害作用)のリスクを伴う特殊な商品です。そうであるからこそ改正薬事法では一般用医薬品をリスクの程度に応じて三つに分類し、それを踏まえたネット販売の規制がされたのです。医薬品が安全に用いられ国民の健康維持に貢献することを願う私たちは、医薬品のこの特質を考慮しない判決に憤りを感じ、抗議するものです。
 判決文の「事実及び理由」の中に諸外国におけるネット販売の実態についてふれられています。その中では、フランスでは医薬品のネット販売が禁止されていること、ドイツでは薬局のみで販売される医薬品はネット販売が禁止されていること、イギリスではネットを通じての医薬品の購入は可能であるがほとんどの消費者は薬剤師との対面販売を望んでいること、オーストラリアではオンライン薬局は存在するものの薬剤師がその販売に関与する必要があることが記載されています。それにもかかわらず、日本におけるこれらの観点からの議論や司法としての判断がされなかったことは遺憾です。
 厚生労働省は2006年に薬事法を改正する際に、薬事法の本篇ではなく施行規則の中でネット販売についての規制を行いました。そのため今回のような解釈の曖昧さを引き起こすこととなり問題を残しました。
 その後、原告であるケンコーコム株式会社は、改正薬事法が施行される前の2009年9月にシンガポールに子会社(kenko.com Singapore Pte. Ltd.)を設立し、国内ではネット販売できない第一類・第二類医薬品をシンガポールに運び日本に「個人輸入」(逆輸入)するという法をかいくぐったネット販売事業を行っています。このような行為は、医薬品を取り扱う株式上場企業が行うことではありません。
 医薬品の健康被害から国民をいかに守るべきかの観点から、私たちは、厚生労働省が薬事法第37条(販売方法等の制限)の条文の中に明確に第一類医薬品と第二類医薬品の郵便等による販売を禁止する旨を盛り込むための、薬事法改正案の国会上程を早急に行うよう要望します。

                          以 上