HOME > 提言・アピール・記事 > 一般用医薬品販売制度  

分野別 提言・アピール・記事

 2013年1月11日最高裁は、ケンコーコム株式会社などが提訴していた一般用医薬品ネット販売の案件に関し、原告勝訴の判決を下しました。厚生労働大臣はこれを受け、一般用医薬品ネット販売のルールについて検討会を2013年2月にスタートさせ、すみやかにルールを確定したいとの意向と報道されています。
 新薬学者集団は、これについて2013年1月30日、次の要望書を厚生労働大臣に提出しました。


 

2013年1月30日

厚生労働大臣 
田村 憲久 様

 

新薬学研究者技術者集団
代表 早川 浩司

 

薬事法に対面販売を基盤としたインターネット販売原則禁止をまず明文化するとともに、
インターネット販売が安全性を担保した販売を可能とできるかについては十分な時間を
かけて検討するよう要望します

 

 2006年に一般用医薬品の安全な使用を目的に、薬事法が改正されました。その趣旨は医薬品のリスクに応じた情報提供・相談応需・販売を専門家が行うことで、専門家の関与する安全なセルフメディケーションの推進を図るものでありました。
 その際、店舗での専門家と購入者(生活者)との双方向のコミュニケーション(対面販売)が重視されました。適切な情報提供とともに、相談に応需し、場合によっては販売せず医療機関への受診勧奨を含む対応がめざされたのです。そのため、対面販売になじまないインターネット販売(郵便等販売)については第3類医薬品を除き、原則禁止されたのです。
 2012年4月に、東京高等裁判所はケンコーコム株式会社と有限会社ウェルネットが国・厚生労働省に対して起こした「医薬品ネット販売の権利確認等請求控訴事件」について、一審の東京地方裁判所が下した判決を覆し、第三類医薬品だけでなく第一類・第二類医薬品についてもネット販売できる権利(地位)を求める原告側の主張を認める判決を下しました。
 この判決では、薬事法施行規則がネット販売を規制する権限をもつかの議論が主として行われ、有害性のリスクをもつ医薬品の特性を踏まえ、憲法25条に基づき国民をいかに健康被害から守るかという議論はほとんどなされませんでした。このため当集団は、2012年5月に判決に抗議するとともに、厚労省に対しては薬事法の条文にネット販売規制を盛り込むよう要望する声明を発表しました。
 しかし、国はこの薬事法にネット販売を規制する条文を盛り込むことをせず、2013年1月11日最高裁判所は東京高裁判決に対する国の上告を棄却する判決を下しました。最高裁判決は、憲法22条で保護された職業活動を制限する上で、インターネット販売の原則禁止には法律の委任が必要であるが、薬事法にはその根拠規定がなく、省令で一律に禁止することまで委任していないとの判決です。
 この判決を新聞は「ネット販売解禁」の大きな活字で伝えましたが、無責任な報道であり、判決はインターネット販売を規制することの当否に判断を示したものではありません。
 今回の混乱を生んだ第一の原因は、厚生労働省が薬事法改正時にインターネット販売を規制する明確な条項を薬事法に設けなかったことにあります。
 私たちは、最高裁の判決がだされた今こそ、厚生労働省はまず判決で指摘された薬事法の不備を改正し、対面販売に基づくネット販売の原則禁止を薬事法に盛り込む取り組みを行うよう要望します。
 厚生労働省は、今回の最高裁の判決を受け、インターネット販売について検討会を設け、現在の混乱状態を終わらせるために速やかに結論を出す意向と報じられています。しかし、IT技術の進歩のなかでインターネット販売がどのようにすれば対面販売に比肩する安全性を確保した販売を確保できるかの検討は、短時間ではできるものではありません。拙速に検討するのでなく、混乱状態を終わらせるためにも、まずインターネット販売の原則禁止を薬事法に盛り込み、インターネット販売の今後の扱いについてはじっくりと腰を据えて検討すべきです。
 私たちは、薬事法に現行の対面販売を基盤としたインターネット販売原則禁止をまず明文化するとともに、インターネット販売については安全性を担保した販売を可能とできるかについて十分な時間をかけて検討するよう要望します。

                          以 上