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厚生労働省に薬害再発防止のための医薬品行政のあり方について
パブリックコメントを提出

 2008年1月、薬害肝炎訴訟において合意が成立し、合意書に基づいて「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」が設置されました。

 2008年9月、検討委員会の中間まとめについてのパブリックコメントが募集されました。

 これに対し、薬害防止に取り組んできた当集団として、2008年12月18日、次の意見書を厚生労働省に提出しました。

 


「薬害再発防止のための医薬品行政のあり方について
~早期に実施が必要な対策~中間とりまとめ」に対する意見

新薬学研究者技術者集団

 わが国における薬害は,諸外国と比較して,その発生頻度の高さとともに被害の様相の深刻さが際立っています。サリドマイド薬害や薬害スモンな どを始めとする薬害のたびごとに厚生(労働)大臣が謝罪し,「二度と繰り返さない」との反省を口にしてきましたが,今日に至るまで抜本的な改善が図られる ことはありませんでした。

 それだけに,このたび「検討委員会」が,薬害再発防止のための医薬品行政のあり方について,その基本姿勢から組織・体制にまでわたって検討されようとしていることに国民は大きな期待を抱いています。

 「中間とりまとめ」のいくつかの点に絞って当集団の意見を提出します。

「第2 医薬品行政の基本姿勢と市販後安全対策の重要性」の項について

 これまで,薬害をめぐる訴訟などをとおして明らかにされてきたことは,承認前の段階で被害の発生を予測できる情報があったにもかかわらず,そ れを無視ないし軽視して承認を与えられた医薬品によって多くの薬害が生みだされたということです。この反省が生かされないと,薬害の再発を防ぐことはでき ません。

 市販後の安全対策が重要なことは,言うまでもありません。しかし,医薬品の安全性対策として第一義的に重要なのは,承認までの各段階(開発, 非臨床試験,臨床試験)で得られる安全性に関する情報が適切に評価されることです。医薬品承認の迅速化,承認段階で得られる情報の限界,市販後安全対策の 重要性などが強調されるあまり,承認審査時の安全性評価と安全対策の重要性が見過ごされることがあってはなりません。

 更に,承認時の安全対策として,特に次のような点が重要と考えます。

・承認に関わる情報は,製法などごく一部の企業秘 密情報を除き,全面的に公開されること。

・米国のREMS(リスク評価・緩和計画)制度などにも 学び,市販後調査の重点項目などをあらかじめ明ら かにしてから承認を与えること。

・条件付き承認の場合,条件として課せられた調査・ 試験などが行われなかったり,求められた内容が 満たされなかったときの措置や罰則を明確にする など,承認条件の厳格な遵守をはかること。

「第3 市販後安全対策の現状と課題」の項について

 市販後安全対策では、有害事象報告制度の改善が急務です。

 医薬品と有害事象との因果関係は,症例を個別的に検討することによって解明されるものでありません。一見すると,医薬品との因果関係が考えに くいような有害事象でも,あちこちから同じ症例が報告されれば副作用の可能性が強まるといった性質のものです。 従って,有害事象が原則としてそのまま報 告されることが,医薬品の市販後安全対策のうえで決定的に重要です。 しかし現実には,医師が副作用と認めなければ報告されないことが多く,厚労省も「薬 事法上報告を求めているのは(有害事象でなく)副作用です」(パブリックコメント結果報告、寄せられた意見と当局の考え方)などとしてこれを是認していま す。これでは薬害の再発を防ぐことはできません。

 医薬品との因果関係を積極的に否定できない有害事象はすべて報告を求めるという行政の姿勢を明確にすべきです。

 さらに,米国、英国、オランダのように患者から行政への直接報告の制度を整備すべきです。患者からの直接報告は,医療従事者が見逃している重要な副作用を把握するうえで極めて重要です。

「第4 早急に実施が必要な対策」の項について

 「医薬品行政の監視等を行う組織」の具体化の課題は,繰り返されてきた薬害の反省から,また今回原告・弁護団と厚生労働大臣との間で調印され た基本合意書で,薬害肝炎事件の検証を第三者機関で行い,恒久対策を継続的に協議するとされた趣旨からも,最重要事項であると考えます。

 現在,総務省には,国の行政機関の業務の実施状況の評価および監視を行う部局として行政評価局が置かれています。しかし,薬事行政について機 能していると言い難い状況にあります。その一因は,医薬品行政を専門とする専任者集団がいないためと考えます。また,医薬品総合機構には,医薬品等による 健康被害者を含めた運営評議会が設置されています。その趣旨をより活かすためにも,開かれた監視機関が調査権限,勧告権限をもって常時活動することが必要 です。

 監視機構をどこに置くにしても,執行組織の誤りやゆがみを正し,執行組織からの独立性をもち,その機能を十分果たすことのできるシステムが必要と考えます。「消費者庁」に置くのも有力な選択肢と考えます。