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「審議参加に関する申し合わせ(案)」への意見表明

新薬学研究者技術者集団

 厚生労働省は先ごろ,「審議参加に関する申し合わせ(案)」に対するパブリック・コメントを募集しました。この「申し合わせ(案)」は,厚生 労働省薬事・食品衛生審議会薬事分科会の審議の公平性と透明性を確保するため,医薬品などの承認審査や安全性などの検討に関わる審議会委員が,関係企業か ら寄付金・契約金などを受け取るなど,利益相反の状況にある場合の,審議や議決への参加の取り扱いをルール化しようとするものです。

 新薬学者集団ではこの募集に応えて,2008年2月20日付けで以下に掲載するような意見を提出しました。

 なお,「審議参加に関する申し合わせ(案)」は,このサイトに掲載されています。

 また,利益相反については「新しい薬学をめざして」本号45ページの解説記事(寺岡章雄:医薬品と「利益相反))を参照して下さい。

 


厚生労働省医薬食品局総務課 御中

「審議参加に関する申し合わせ(案)」(20.1.22)に関する意見

2008年2月20日
新薬学研究者技術者集団

 国民の健康と生命に重大な影響を及ぼす可能性のある利益相反に関連して,薬食審・薬事分科会の「審議参加に関する申し合わせ(案)」をとりまとめられたことは,時宜を得ており,尽力に敬意を表するものです。

 以下,次の3点に関し,意見を提出いたします。

1. 「寄付金・契約金等」は「奨学寄附金」もしくは「教育研究の奨励を目的として大学等に寄付されるいわゆる奨学寄附金」を含むことを,申し合わせ(案)の「注4」で明記するよう要望します。

[理由]
・参考資料7の「(3)奨学寄附金の取り扱い」に,「審議のより一層の中立性・公平性の確保という観点から,奨学寄附金も含め,寄付金・契約金等は,内容 を区別せずに,審議,議決不参加の基準を設定する方向で検討した」とあり,「奨学寄附金」を含めていることは適切です。
・しかし,申し合わせ(案)の「注4」には,「寄付金・契約金等」について具体的な記載がされているにかかわらず「奨学寄附金」の文字がなく不明瞭です。 「奨学寄付金」あるいは「教育研究の奨励を目的として大学等に寄付されるいわゆる奨学寄附金」が含まれることを明記するよう要望します。

2. 「審議不参加の基準」と「議決不参加の基準」を別々に定めるのではなく,両者を一体化した「審議・議決不参加の基準」を定めることとし,その金額を「50万円以上」とするよう要望します。

[理由]
・議決は,審議全体の結論を確認する意味でなされるものであり,利益相反を有する人の発言は,議決にも大きな影響をもたらす可能性があります。また,第3 者からもそのように見なされます。審議と議決は一体のものであり,「議決不参加の基準」は「審議不参加の基準」でもあるべきと考えます。
・「審議不参加の基準」は,個別企業からの受取額が年度あたり「500万円以上」となっていますが,この基準は実際上高額に過ぎ,このようなケースはむしろまれと考えられます。このような基準では,申し合わせ事項を定める意義が非常に薄くなると考えます。
・「審議・議決不参加の基準」の金額が「50万円以上」では少額すぎるという議論があるかと思いますが,この申し合わせは委員や参考人になる資格自体を制 限するものでなく,該当審議事項の審議・議決への参加を制限するだけのものなので,利益相反を疑われないよう厳しくあるべきものと考えます。

3. 「特例」で,「部会など」がいわゆる余人をもって替え難いと認めた場合は審議・採決に参加を認めるとしています。これは「部会など」でなく第3者機関が決めるようするべきです。

[理由]
身内が決めるのでは公正性が担保されず,適切な第3者機関が決めるようするべきです。

以上


「新しい薬学をめざして」37 (3), 45-46 (2008).

─ 解説 ─

医薬品と「利益相反」

寺岡章雄

 新薬学者集団は,2008年2月20日,薬事・食品衛生審議会(薬食審)薬事分科会関連の審議参加者についての「利益相反」公開・規制に関す る「審議参加に関する申し合わせ(案)」に対して,別項の意見を,パブリック・コメント(意見公募)に応じて,厚生労働省医薬品食品局総務課に提出しまし た。以下,「利益相反」について若干の解説をします。

 「利益相反」とは,公正になされなければならない判断が,金銭的な利害関係や個人的な成功への願望などでゆがめられる可能性のある状況を言い ます。前者を「金銭的利益相反」(financial conflict of interest),後者を「心情的利益相反」(intellectual conflict of interest)と言います。

 医薬品には,大きな経済的利害が絡む商品性があり,その取り扱いでの「利益相反」がもたらすゆがみは,国民の健康と生命に重大な影響を与える可能 性があります。このため,新薬の販売承認や市販後監視などの審議に際しては,参加者の「利益相反」について適切な規制が必要であり,今回パブリック・コメ ントにかけられたのはその管理規則案です。

 「心情的利益相反」はこのような規則の形では規制が難しく,規制の対象となっているのは「金銭的利益相反」です。また,「金銭的利益相反」の規制 にあたっては,その ・公開,・管理(監督),・禁止のうちいずれの対処をとるか,またこれらをどう組み合わせるかが選択肢となっています。

 「利益相反」は,その影響がどうであったかを問題にするものでなく,第三者からみてどのように映るか(「アピアランス」と言います)を含め,あらかじめ適切に規制することで,重大な影響がもたらされることを防止し,透明性や公正さを担保しようとするものです。

 

 今回,薬食審薬事部会で「利益相反」ルールを定める発端となったのは,抗インフルエンザ剤タミフルの副作用をめぐる「利益相反」が,マスコミでとりあげられたことでした。

 「週刊朝日」誌 2007年3月13日号が,《タミフル異常死と「疑惑のカネ」》のタイトルで,タミフル服用時の異常死と同剤との因果関係を調査する研究者に,製薬会社から「資金」が渡っていたとのスクープ記事を掲載しました。

 当時,厚生労働省はタミフルについて「安全性に問題がない」との見解をとり続けており,その有力な根拠となっていたのが,厚生労働省の調査研究班 の報告書でした。その主任研究者である横浜市大・横田俊平教授が主宰する小児科の講座に,タミフルを販売する中外製薬から2001~04年度に総額850 万円の奨学寄付金が渡っていたことが,同誌取材班による情報公開請求で判明しました。研究班の他の医師6人への取材では,岡山大学・森島恒雄教授も中外製 薬から奨学寄付金を受け取っていることを認めました。

 3月30日には,厚労省が,研究班メンバーに対する中外製薬からの2006年度の寄付額は,横田教授150万円,森島教授200万円,統計数理研 究所・藤田利治教授6,000万円と発表,これら3名の研究者を研究班から外すことを表明しました。これに対する横田教授らの抗議のなかで,研究班の 2006年度予算1,027万円のうち,627万円は中外製薬が研究班員の所属機関に寄付した資金が使われており,厚労省担当部局もこれを了解していたと いう,調査の公平性・中立性を根幹から揺るがす事実が明らかになりました。

 このタミフルでの「利益相反」問題を契機に,医薬品の承認審査や市販後安全対策に関わる審議を行う薬事・食品衛生審議会薬事分科会で,「利益相 反」の観点から審議参加についてのルール作りが進められました。またこれと平行して,厚生科学研究での「利益相反」についてのルール作りも進められまし た。後者については最近 パブリック・コメントも経て,ルールが決められましたが,一口で言えば各研究機関に「利益相反」委員会の設置を義務付け,規制はそこに丸投げするという内 容となっています。

 「利益相反」には,個人だけでなく組織の「利益相反」もあり,薬害をもたらす構造としていつも問題となる「産・官・医の癒着構造」も,「利益相反」によるゆがみの構図そのものとも言えます。

 「利益相反」の問題は,日本ではまだその本質がよく理解されていませんが,絡まった問題を解く重要なキーワードであり,今後も目を離すことができないでしょう。


「新しい薬学をめざして」37 (6), 125-126 (2008).

厚労省審議会“利益相反ルール”への意見表明

その後の経過について

寺岡章雄

 新薬学者集団では2008年2月,厚生労働省の医薬品の承認審査や安全性などの検討に関わる審議会委員の利益相反を取り扱う「審議参加に関する申し合わせ(案)」についてのパブリックコメント募集に応じて,意見表明をしました(本誌37巻3号,43~46ページ参照)。

 医薬品に関連する利益相反問題では,その後2008年3月30日付けの読売新聞が1面トップで,同社が国公立50大学へ情報公開請求したデー タに基づき,「指針作成医9割へ寄付金,製薬企業から,高血圧やメタボ40疾患」の記事を掲載しました。同紙は引き続き「医師の臨床指針作成,“資金提 供”開示は3指針だけ,“寄付なし”の記載も,68疾患厚労省調べ」(4月10日付け),「部長,講演報酬5000万円,国立循環器病センター,薬事審委 員,製薬32社から」(4月13日付け)などの記事を掲載,利益相反問題の重要性が一層明らかにされつつあります。

 この新薬学者集団のパブリック・コメント応募後の経過報告を行うのが遅れたのは,3月24日の薬事・食品衛生審議会薬事分科会を通過したとされる「審議参加に関する遵守事項(案)」1)の最終版がいまだ公表されていないことによります。

 このほど厚労省から入手した最終版では,変わったのは最後の「6. 国民の皆様へ」の記載だけで,「寄付金・契約金を受け取っていることのみをもって,国民が委員などと企業との間に不適切な関係があるかのように誤解しない よう」,さらに加筆強調されています。すでに委員には送付され5月から適用されているとのことです。

 厚労省ではどこにアップロードするか検討中とのことです。「国民の皆様へ」が変更されているのに公表が遅れていることは遺憾であり,アップロード 先については,委員の利益相反申告書を公表することが決まっているのだから専用コーナーを設ければ解決されることで,公表が急がれます。

今回のパブリックコメントに応募して寄せられた意見とそれに対する厚労省の見解は,同省のサイト2)に掲載されています。

新薬学者集団で意見提出したのは,次の3点でした。

(1)「寄付金・契約金等」に「奨学寄附金」も含めることを明記すること。

(2)「審議不参加の基準」と「決議不参加の基準」を別々に定めるのではなく,両者を一体化して「審議・決議不参加の基準」を定め,その金額は「50万円以上」とすること。

(3)特例で審議参加を認める場合は,「部会など」内部ではなく,第三者機関が決めるようにすること。

 上記のうち (1)項については,「ご意見を踏まえ,寄付金・契約金等に,教育研究の奨励を目的として大学等に寄付されるいわゆる奨学寄付金も含む旨を記載した」との回答がされました。

 (2)項および(3)項については受け入れられなかったものの,このルール自体が今後さらに検討されることに決まっているなかで,他団体からの要 望とあわせ毎日新聞2008年3月30日付けで「甘い基準,実効性に疑問」と報道されるなど,今後の改善に向けて一定の役割を果たしました。

引用資料

1) http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/03/dl/s0324-9e.pdf

2) http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/03/s0312-10.html