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【声明】

日本のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加に反対します

2012年7月24日
新薬学研究者技術者集団


 日本政府は、メキシコ・カナダ両国との同時参加をめざし、2012年8月中にTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加を決定し、米国など関係9か国に通告する方針を固めたとの報道がされています。
 私たち新薬学研究者技術者集団は、独立国としての国民の主権・利益を守る立場から、また薬学の成果が国民の生命と健康を守ることに正しく生かされることを願い活動する立場からTPP参加に強く反対します。
 TPPは、例外のない関税撤廃を進めるという、米国が主導するFTA(自由貿易協定)を太平洋沿岸諸国に広げるものです。日本を含めた交渉参加予定10か国のGDP(国内総生産)規模から日米が約90%を占め、実質的に日米FTAと言えます。米国はこれまで、「年次改革要望書」「外国貿易障壁報告書」で、日本に対して市場競争原理の導入、規制緩和による「市場開放」を露骨に求めてきました。TPPは、米国に都合の良い市場開放を主要なすべての分野で例外なく進めようとするものです。関税規制の撤廃がもたらす農産物自由化は、日本農業を押しつぶすと懸念されています。
 TPPの危険性は「経済的規制」の撤廃がもたらす影響のみならず、非関税障壁の名のもとに、例えば保健・医療の分野では、医薬品供給システムや国民皆保険制度など各国が国民の健康・福祉のために自主的に定めてきた「社会的規制」をも、米国の自己都合で変えさせることにあります。日本政府は、国民皆保険制度はTPPの対象外だと述べていますが、医療保険の対象である医薬品が市場開放されれば、医薬品を用いる公的医療保険制度に影響が及ぶことは自明のことです。
 TPPには、他にも他国の主権を侵害する重大な問題点があります。TPPには、企業・投資家が他国の政府を直接裁判に訴えることができるISD条項(投資家と国家間の紛争解決手続き)が盛り込まれる可能性が高いのです。ISD条項については、米国のタバコ会社フィリップモリスの子会社が、タバコの飲みすぎに注意喚起する公衆衛生規則を定めたオーストラリア政府を不当な貿易障壁として提訴し、米国の燃料会社がカナダ政府を不当な環境規制をしているとして提訴した事実が知られています。
 そしてTPPに先行する米韓FTAでは、米国の製薬企業が韓国政府の定めた医薬品の償還価格に不満がある場合は、政府から独立した「医薬品・医療機器委員会」に異議申し立てができるようにされました。また米国の強い要求により、知的財産権保護の国際水準であるWTO(世界貿易機関)のTRIPSを大きく超える保護水準(「TRIPSプラス」)が設定され、ジェネリック医薬品の活用が困難になっています。
 また、TPP交渉は国民の目から隠して秘密裏に行われ、締結までその内容が情報公開されません。国民の健康・福祉・安全のために自国の社会制度を民主的に定めるのは、独立国として当然の権利であり、TPPはそうした国の形をも、米国の自己都合で変えさせる危険なものです。 
 私たちは、日本政府がTPPへの参加を断念するよう、強く求めるものです。