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分野別 提言・アピール・記事

厚生労働大臣
  田村 憲久 様

スイッチOTCについて全面的な情報公開と公正でオープンな議論を求める要望書

2012年12月27日
新薬学研究者技術者集団
代表 早川 浩司

  1. 要望事項
    スイッチOTCの推進については十分な情報公開のもとにオープンで公正な議論が必要です。
    とりわけ次の6点について要望します。

    1)スイッチOTCについて何よりもその基本的立場や手順について明確に示すこと。

    2)薬学会に委託しているスイッチOTC候補成分の選定のための組織体制、選定基準と選考方法などについて情報公開すること。

    3)毎年同じ時期に公表されていた「一般用医薬品としても利用可能と考えられる候補成分」が2012年はまだ公表されていない。公表すること。

    4)重要なスイッチOTC品目については、販売承認の前に審査報告書をはじめ、承認にあたって付される予定の承認条件、販売時に用いるチェックシートなど重要な書類を公開し、公聴会やパブリックコメントなどを実施すること。

    5)スイッチOTCに関連する薬剤師職能の活用や医療機関との連携(医薬連携)推進などの合意形成を進めること。

    6)厚生労働省による設置が報道されている生活習慣病分野でのスイッチOTCのあり方についての検討の場は、政治力に左右されるものであってはならない。公開で公正な検討を行うこと。

  2. 要望理由
     私たちは、国民の健康と生命を守る立場から、薬学の成果が医療・保健・環境などの分野で正しく生かされるよう活動している薬学研究者技術者の全国組織(創立1969年)です。

     薬剤師の任務について、薬剤師法第1条は「薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。」と定めています。

     また、一般用医薬品については、薬事法第25条で、「医薬品のうち、その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであって、薬剤師その他の医療関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているもの」と定義され、その販売における薬剤師の役割が明確化されています。

     2009年6月に開始された新たな一般用医薬品販売制度において、一般用医薬品はリスクの程度に応じて3分類され、医療用から一般用に転用されたスイッチOTC成分は、当初は第1類に分類され、薬剤師による販売・情報提供が義務づけられています。

     スイッチOTC候補成分については、厚生労働省が2007年3月に、関係学会の意見を聴いた上で、薬事・食品衛生審議会において討議・公表することにより、その医療用医薬品から一般用医薬品への転用を推進するスキームの創設を、薬事・食品衛生審議会一般用医薬品部会の了解を得て定めています。そして関係学会としては、日本薬学会、日本医学会を組み入れ、それらの意見を経て、スイッチOTCの候補成分が薬事・食品衛生審議会一般用医薬品部会で審議されています。

     この一般用医薬品部会にかけられていた候補成分のうち、生活習慣病分野ではじめてとされるイコサペント酸エチル (EPA) のスイッチOTC化が、2012年10月17日、薬事・食品衛生審議会で了承されました。ところが、これに対し社団法人・日本医師会が2012年11月21日に「疾患の診断・治療は医師のみが行う行為であるが、医療用医薬品のスイッチOTC化により、購入者の自己申告にもとづき薬剤師が服用可否を判断することになり問題である」などとし、生活習慣病薬のOTC化について反対を表明し、混乱を生じています。最近の2012年12月21日の報道では、厚生労働省は生活習慣病分野でのスイッチOTCのあり方についての検討の場を設置し、その検討が済むまで申請の出ている品目の審査を凍結することを日本医師会に約束したと伝えられています。

     今回問題を大きくしたのは、厚生労働省が医療資源の活用や生活者の利便性、コミュニティ薬剤師の活用に基づいて、セルフメディケーションを具体的にどう推進するかを示さず、スイッチOTC、地域での医薬連携についての合意形成を怠ってきたからです。そして、報道されている混乱の「解決」にあたっては、国民の健康・保健に関わる重要な問題が、特定の団体の政治力の強さで左右されないかとの懸念があります。

     厚生労働省は、これまでスイッチOTCやセルフメディケーションについての基本的な文書を明らかにしていません。厚生労働省から公開されているのは、医師会が指摘しているように10年前の一般用医薬品審査合理化等検討委員会の「セルフメディケーションにおける一般用医薬品のあり方について」中間報告書(2002年11月8日)ぐらいしかありません。これは中間報告書であり、最終報告書は出ていません。2003年3月22日の一般用医薬品部会で「医療用医薬品の有効成分の一般用医薬品への転用について」が採択されたとされますが、この文書は公開されていません。

     私たちは2012年3月19日に、日本薬学会に対しスイッチOTC候補成分の選定にかかわる日本薬学会の業務について、情報公開を行うよう要望しました。

    「スイッチOTC候補成分の選定にかかわる日本薬学会の業務についての
    情報公開を求める要望書」http://pha.jp/shin-yakugaku/proposal/04_03.html

     しかし、今に至るも実現していません。この情報公開がされていないことについては、薬学会は委託の際の厚生労働省との機密保持契約で情報公開できないのではとの指摘がインターネットでされています。
    今回のイコサペント酸エチル (EPA) のスイッチOTC化に関する資料も、審査報告書、店頭での販売の判断に用いられるチェックリストなど、重要な文書がまだ公開されていません。薬事日報紙2012年12月5日報道によれば、日本薬剤師会の生出泉太郎副会長は、日本医師会のスイッチ反対表明に際し、販売の判断に用いることとなっているチェックリストに関して、「それ自体、われわれは見ていないので何とも言えないが」と語っています。重要な位置にある専門家が見ていないという状況自体が問題です。

     このような重要な事項について時宜を得た情報公開がされていない状況では、セルフメディケーションのあり方をどのように考え、そのなかでスイッチOTCをどのように位置づけていくか、どのようなスキームで具体的に推進するのか、個別品目のスイッチOTCをどのように考えるかなど、合意が困難です。

     私たちは、地域での医薬連携を大切にし、十分な情報公開とオープンで公正な議論を求める立場から、上記「要望の内容」に掲げた6項目を要望します。なお、重要な位置を占める医薬品の承認前の情報公開については、すでに抗がん剤(多発性骨髄腫治療剤)サリドマイドと緊急避妊剤レボノルゲステレルでなされていることを付記します。

以上