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 2011年11月15日、イレッサ訴訟裁判において、東京高裁は国とアストラゼネカ社の責任を否定する判決を言い渡しました。
 新薬学者集団は、その内容が薬害防止に逆行する重大なものであるため、抗議声明を発表しました。


【声明】

イレッサ薬害訴訟東京高裁判決に抗議する

2011年11月22日
新薬学研究者技術者集団
  代表代行 早川 浩司

 2011年11月15日、東京高裁は、イレッサ薬害訴訟で国とアストラゼネカ社の責任を否定する、きわめて不当な判決を言い渡しました。
 東京高裁は判決で、一審が下したイレッサによる「副作用症例」であるとの認定は「因果関係を否定することはできない」「因果関係がある可能性ないし疑いがある」との判断を示したにとどまり、「因果関係がある」とまで認定したものではなく、添付文書における記載に欠陥はないとして、一審判決を覆して企業と国の責任を否定しました。
 しかし、過去の多くの薬害は、企業と国が医薬品との関係が確定的でないとして適切な安全対策を行わなかったことで発生しました。このことから、因果関係が否定できない、ないしはその疑いがある場合は副作用として扱い、適切な安全対策を行う必要性が薬害訴訟をとおして明確となりました。この「予防原則」は、欧米においても医薬品安全対策の基本として確立されつつあります。
 企業と国が必要な安全対策を適切に行わなければ薬害は繰り返されます。今回の東京高裁の判決は、多くの薬害の教訓と世界の医薬品安全対策の方向に逆行するものです。
 私たちは、2011年8月1日に「イレッサ薬害の真摯な検証のために」のアピールを発表しました。スモンをはじめ、過去の多くの薬害訴訟では、被害が詳細に検証され、その結果が、薬事法制の不備を改め、医療のあり方を正すことに結びついてきました。しかし、イレッサ薬害の検証は、なおきわめて不十分な状態にとどまっています。
 ところが、東京高裁は2011年9月6日と10月25日の2回の審理のみで11月15日には判決を言い渡しています。この拙速な審理には、今回判決の結論が先にあって形式的な審理を行ったのでないかと疑わせるものがあります。
 判決は、イレッサを使用する医師であれば、本件添付文書第1版の重大な副作用欄に記載された間質性肺炎が致死的なものとなり得ることは容易に認識できたものというべきであると述べています。しかし、イレッサの処方をがん専門医に限定したのは多数の被害者を出した後であり、当初、イレッサは内服で使いやすいとされ、医師なら誰でも処方できたことが被害の拡大をもたらしたのです。
 イレッサの犠牲者は、ほとんどが死亡しておられ、もはや自ら証言することができません。この方々の命の重みをもっと真摯に受け止めるべきではないでしょうか。
 私たちは薬害根絶を願う薬学関係者・薬剤師として、今回の東京高裁の不当な判決に心からの怒りを込めて抗議するとともに、大阪高裁・最高裁が適切な判断をされるよう強く望みます。
 また、イレッサ薬害についてさらに真摯かつ全面的な検証を求めていくものです。