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インフルエンザ治療剤タミフルについての緊急要望書

厚生労働大臣 舛添要一様
厚生労働省医薬食品局安全対策課長 森和彦様

2008 年8 月29 日
新薬学研究者技術者集団

要望事項

1. 医薬品等安全対策調査会は,現時点でタミフルの安全性について最終的な結論を出すべきでない。
2. 10 代患者への原則投薬禁止の解除を行うべきでない。
3. 突然死について早急に添付文書での警告を行うべきである。

 服用後の異常行動・突然死が問題となっているインフルエンザ治療剤タミフル(オセルタミビル)について,厚生労働省のワーキンググループ(廣 田班:班長,廣田良夫大阪市大教授)が2008 年7 月10 日,インフルエンザ患者約1 万人の疫学調査などから「タミフル使用と異常行動発現の間に関連を検出できなかった」との結論をまとめた。すでに臨床研究,動物実験でも同様の結論が出て おり,これを受けて厚生労働省は,8 月中にも薬事・食品衛生審議会の医薬品等安全対策調査会を開き,最終的な結論をまとめ,10 代への原則投薬禁止の解除を行う意向と報道された。その後,データの集計ミスがあり,確認のため8 月中の開催は延期するが,軽微なミスで念のための措置であると報道されている。

 2007 年3 月,タミフル服用後の異常行動について「緊急安全性情報」が出され,厚生労働省辻事務次官が記者会見で,「因果関係の有無を虚心に検討する,これまでの 「否定的」という判断は変わりうる」と表明したことは記憶に新しい。また厚生労働省は,異常行動だけでなく突然死についても検討するとのことであった。

 しかしその後,タミフル服用と異常行動との因果関係を疫学的に解明する上で不可欠な「症例対照研究(ケース・コントロール・スタディ)」は行 われなかった。この研究は,事故につながる異常行動を発現した患者を「症例(ケース)」とした後向きの研究で,短期間に実施できることが特長であ り,2007 年のインフルエンザ流行期に実施可能であったにもかかわらずである。

 また,タミフルによる中枢抑制作用が異常行動と突然死につながっているとの浜六郎らによる指摘があったにもかかわらず,その関連解明につながる効率的な基礎・臨床研究も行われていない。

 上記の廣田班による「インフルエンザ随伴症状の発現状況に関する調査研究」の解析報告においては,廣田班自身もデータ収集と解析の限界を認め ている。そして,比較においては両群を同じ扱いのもとで比較しなければならないという疫学・統計学の常識に反する解析の誤りさえ,指摘されている状況にあ る。

 一方,異常行動・突然死につながるタミフルによる精神神経系害反応の機序(メカニズム)については,ほぼ明確になってきている状況がある(浜六郎:BMJ 誌電子版2008 年8 月12日;TIP 正しい治療と薬の情報誌2008 年7・8 月合併号)。

 このような状況で,安全という最終報告や10 代患者への原則投薬禁止の解除など,到底行い得ないことは誰の目にも明らかであり,決して行ってはならない。

 また,厚生労働省の把握でも74 人に達している突然死については,非常に重大なことであるにかかわらず,ほとんど手つかずの状況である。因果関係の確定以前においてもその重大性から臨床現場への注意喚起が必要であり,早急に添付文書に記載すべきである。