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分野別 提言・アピール・記事

厚生労働省 医薬食品局審査管理課 御中
薬事・食品衛生審議会日本薬局方部会 御中

2003年12月25日

新薬学研究者技術者集団

プラステロン硫酸ナトリウムを第十五改正日本薬局方に
収載しないことを求める要望書

 厚生労働省医薬局(当時)審査管理課から平成14年(2002年)12月27日に各都道府県に通知された「今後の日本薬局方のあり方について」1)に は、日本薬局方の役割として、現時点では日本で流通する医薬品の品質を確保するということであるが、今後は品質のみに着目するのではなく、保健医療上重要 な医薬品を収載した日本薬局方を整備していくべきで、保健医療上重要な医薬品を規定するものとの位置づけを確立すべきであると述べられています。

 ここで「保健医療上重要な医薬品」とは「有効性又は安全性に優れているものであり、医療現場において不可欠のもの」と言い換えられるとされて います。そして、現在日本薬局方に収載されている医薬品については見直しを行うこと、時代の変遷により医療上の必要性が低くなった収載品目については必要 に応じ削除を行うことが示されています。

 平成18年(2006年)4月の施行をめざし、現在作業が進められている「第十五改正日本薬局方」は、これらのあり方を踏まえて作成されると報道されています2)。

 現在「第十四改正日本薬局方」に収載されている医薬品に「プラステロン硫酸ナトリウム」があります。「プラステロン硫酸ナトリウム」は、「妊娠末期子宮頸管熟化不全 (子宮口開大不全、頸部展退不全、頸部軟化不全)における熟化の促進」を適応とする子宮頸管熟化剤です。

 私たち新薬学研究者技術者集団は、この「プラステロン硫酸ナトリウム」について、妊婦へのエストロゲン製剤の投与は禁止すべきと、従来から厚生労働省に訴えてきました3)。欧米では,すべてのエストロゲン製剤が妊婦に対し禁忌となっています。

 プラステロン硫酸ナトリウムは,化学構造上はエストロゲンに分類されませんが,妊婦に投与すると,胎盤に存在する酵素によって代謝され,速やかに エストロゲン(エストラジオール,エストロン)となります。したがって,プラステロン硫酸ナトリウム製剤は,事実上のエストロゲン製剤と見なされます。注 射剤では35%が強力なエストロゲンであるエストラジオールに変換され,これが母体血液中に急増します。また,胎児にも移行することが確認されています。

プラステロン硫酸ナトリウム製剤は,わが国のみで「子宮頸管軟化剤」として承認・製品化されている,いわゆる「ローカル・ドラッグ」です。 エスト ロゲン製剤については,EBM(根拠に基づいた医療)を推進する英国のコクラン共同体が,「頸管熟化のためのエストロゲン投与は,理論的には,子宮の収縮 性に何の影響も及ぼさずに頸管を熟化させる。しかし,さまざまなエストロゲン製剤での対照試験では,有益な効果は得られていない」と結論しています4)。日本での臨床試験成績を検討しても、その有効性は実証されていません(詳しくは文献3参照)。

 2003年4月30日に、厚生労働省はプラステロン硫酸ナトリウム製剤の使用上の注意を改定し、「重大な副作用」に「胎児仮死」を加えるよう企業に指示しました5)。プラステロン硫酸ナトリウム注射剤の臨床試験でも新生児切迫仮死の増加傾向が見られており,これは動物実験で見られた周産期死亡率の増加とよく符合するなど,本剤によってかえって周産期障害が増加する危険性が指摘されていました6)7)。

 このように有効性が示されず,リスクのあるエストロゲン剤であるプラステロン硫酸ナトリウム製剤が妊婦に投与されています。しかも,プラステロン硫酸ナトリウム製剤が開発時の臨床試験で,「分娩の自然経過改善を目的として 」8) 正常妊婦に投与されていたことと軌を一にして,実際の医療の現場でも,正常妊婦に対する出産管理の一環として,引き続き用いられる分娩誘発剤とセットで,ルーチン(日常的)に多用されています。

 私たちは、この「プラステロン硫酸ナトリウム」は、「保健医療上重要な医薬品を規定するもの」との位置づけで編纂される「第十五改正日本薬局方」にまったくふさわしくないものと考え、本品目が「第十五改正日本薬局方」に収載されることのないよう要望します。

以 上

文献など

1)http://www.nihs.go.jp/mhlw/jouhou/jp/index.html (2003.12.9アクセス)

2)薬事日報 2003年1月10日号

3)新薬学者集団妊婦とホルモン剤アッピールなど

4)Enkin M., Keirse M. J. N. C.;Renfrew M., Neilson, J.:A Guide to Effective Care in Pregnancy and Childbirth, Second Edition, Oxford University Press (1995).[邦訳/マレー・エンキンほか(著),北井啓勝(監訳):妊娠・出産ケアガイド─安全で有効な産科管理,医学書院MYW (1997)].

5)http://www.pharmasys.gr.jp/ (2003.12.9アクセス)

6) 浜六郎,八重ゆかり:プラステロン硫酸ナトリウム(マイリス)その有効性と安全性(危険性)に関する研究(1),正しい治療と薬の情報(TIP誌) 14,137-143 (1999).

7) 浜六郎,八重ゆかり:プラステロン硫酸ナトリウム(マイリス)その有効性と安全性(危険性)に関する研究(2),正しい治療と薬の情報(TIP誌) 15,11-17 (2000).

8) 小林隆,中山徹也,東條伸平,鈴木雅洲: Dehydroepiandrosterone Sulfateの妊娠末期子宮頚成熟,子宮筋のoxytocin感受性並びに分娩経過に及ぼす影響について~二重盲検法による検討,産婦人科の実際, 26,365-375(1977).