薬局におけるOTC薬 (大衆薬を巡る四つの物語1)

アスカ薬局(元日本薬剤師会会長) 佐谷圭一

1 OTC薬(大衆薬・一般薬・家庭薬)の特性

 今から10年ほど前の阪神大震災の時のはなしである。私は、その日から10日ほど後に単身神戸市に入った。先ずは、各区の保健所を廻り医薬品の備蓄状況などを確かめた後、避難所に当てられていた六甲小学校へ向かった。六甲小学校は確か千人を下らない人たちが避難をしていた。医薬品は被災後三日目位から飛行機で近くの飛行場へ輸送され、そこから市の消防学校の校庭迄ヘリで運ばれ、次に区の保健所へ配布され、そこからまた区内の避難所へ送られて来た。私が緊急避難所の一つである六甲小へ入った時、そこにはすでに救護施設ができあがっていて、医師が二人と看護婦が4人薬剤師が二人働いていた。いずれもボランティアの医療関係者だった。

その時、救護施設にはすでに多くの医療用薬品が運び込まれていて、診療態勢が整っていた。だが問題があった。医師が診療し処方せんを書き薬剤師が調剤しようとしていたが、天秤がない、メートルグラスがない、投薬びんが無かった。現場では小児への投薬に差し支えがでた。時は1月の末、風邪が蔓延していた。小児への投薬ができなかった。そこで急遽、薬剤師が医師に提案した。調剤機器が揃うまでは大衆薬のかぜ薬のシロップを投与しょう、抗生物質は1グラム包装が多いから目検討で分割調合する。大衆薬の総合感冒薬には、解熱剤・鎮咳剤・抗アレルギー剤が入っている。これで十分に役にたった。大衆薬のかぜシロップには目盛りのついたカップが付いていた。母親が自分の判断で子供にのませることができた。

次に出てきた問題は、ひび・あかぎれ対策だった。医薬品はたくさん送られて来ていたがハンドクリームや化粧品がなかった。厳冬期、水が出ない。母親が子供がひび・あかぎれに苦しんだ。これも解決策を薬剤師がみつけた。保健所に配られない(水洗トイレが使えなかった)浣腸が山と積まれていた。浣腸は50%グリセリン液だ。これを手につけさせよう、顔に塗らせよう。このアイディアに医師も看護婦も驚いた。薬剤師の名声があがった。ここにいくつかの大衆薬の特性が光る。多くの人に適用する処方で製造された大衆薬、総合感冒薬、総合胃腸薬、自分で判断して患者が使えた。セルフメディケーションである。緊急時ならずとも大衆薬と呼称されたゆえんである。