薬局におけるOTC薬 (大衆薬を巡る四つの物語3)

3 予防と治療のはなし

私が若いころ、厚生省(当時)の一般薬委員をやっていたころの話である。厚生省の組織する一般薬委員会というのは、大衆薬の許可や効果・効能を審議していた。そこにある日問題が起こったのだ。かなり偉い先生の御発言だったが、「大衆薬と云えども薬なのだから、予防的な使用はいかん、まして予防効能はけしからん!」というのだ。私にはおっしゃる意味は良く分かった。医療用医薬品はワクチンなどを除けば予防効能はほとんど持たない。まして、保険適用になる薬が予防効能を持ったら財政は破綻する。不老長寿の薬やガン予防薬などできたら、だれも彼もが飲み始める。保険財政はパンクする。副作用も計り知れない。大先生のおっしゃる通りだ。だが、私は薬局薬剤師だ。なんだか大衆薬がばかにされたようで無性に腹が立った。そこで手を挙げて発言を求めた。ここにいる委員の方々は、かなりのご年輩の方が多いとお見受けするが、例えばのはなし、ご自分が「便秘」したら、薬を飲むのに「今朝でなかったから、寝る前に便秘薬を飲む」のか「今朝は出たが、明日の朝も出したい為に寝る前に飲むのか」どちらかを、お聞きしたいと開き直った。前者は治療であり、後者は予防と云うわけだ。

これを聞いたくだんの先生は、怒りに怒った。「そんなことを云う奴がいるから、○○○(有名な便秘の大衆薬)を一度に200錠も飲む馬鹿者がいるのだ!」と。これを見かねた委員長(有名な医師)が仲裁に入った。「佐谷委員、慢性便秘の治療という項目で予防効能は止めときましょう」といわれた。私もそれ以上は逆らわなかったが、次の委員会で面白い事が起こった。「船・自動車等酔い止め薬」が審議されることになったのだ。すかさず私は云った。「委員長、これも船に酔ってから飲ませる治療薬ですよね」と。ここで話は決着した。大衆薬には、予防効能があり得るという委員会の了解事項が成立したのだ。私は、これを会議録に文章で記載するよう要求した。

大衆薬は、安全性も高い、中には予防効能があってもいい。おまけに保険給付ではない。ユーザーは自費で賄うのだ。疲れる前に飲むとか、一杯やる前にのむくすりとか、たくさん食べる前に飲む薬とか人生を楽しくする薬があってこそ「大衆から愛される薬」だと思う。