十文字革命動機と方法論 (2)

アスカ薬局(元日本薬剤師会会長) 佐谷圭一

コロンブスの卵

2002年3月、会長を辞めて「薬局」という現場に戻った私は、ふと、あることを思いついた。いわゆる「レセコン」から打ち出されてくる「処方歴」の医薬品名の頭に、半角十文字の空白部分を見つけたのだ。実は、その空白の十文字は日付記載欄の下の部分で、多くのレセコンの処方歴では、当たり前の如く空けてあった。私は直ぐにこの空白部分が利用できないかとソフトメーカーに交渉を始めた。半角十文字は全角5文字になる。副作用の頭文字を薬剤師が自分で打ち込めないかと相談した。例えば、横紋筋融解症なら「横」、間質性肺炎なら「間」、日光皮膚炎なら「光」でわかる。ソフトメーカーからは、直ぐに返事が来た。「改造出来ます。」と。このやりとりが面白い。「医薬分業が本格的に始まって30年も経つのに、こんな簡単なことがなぜ出来なかったの?」「どこからも、そんな要求は無かったからです。」正に、コロンブスの卵だった。

十文字革命

さて、その出来上がった「ソフト」を前にして、私の胸は高鳴っていた。書道家が真っ白な紙を前にして興奮を鎮めている心境だった。今から4年半前のある日のことであった。アスカ薬局では、前年の棚卸しでは、医療用医薬品、2000品目を越えていた。大きな山を前に登山ルートの計画をする必要があった。全ての十文字(略字)を完成するのは、半年後ときめた。実労働日数を120日ときめて、計算すると、一日、17品目についての十文字の打ち込みが必要になる。しかし、どこからどのように手をつけるかだ。

私は、直近1年間の医薬品の処方出来高を、レセコンから打ちだしてみた。これは出来るだけ頻度の高い順に入れていけば、打ち出されてくる十文字の活用が高まると考えたからだ。順位の高いものから、一日17品目のゴールを目指した。
添付文書を2回ほど読み、(私には、初めて読む添付文書がたくさんあった。)取り上げる副作用を決める、全角が5文字だから、五つの副作用を決める、そしてその副作用を思い出させる象徴的な文字を決めて打ち込む。この作業は、私には知的なゲームになった。作業は、半年を待たずして完了した。その後は、補完作業が大切だ、新しい医薬品が加わった場合はその日の内に打ち込んでいく。また、副作用追加の情報があれば、取り上げると決まれば、以前打ち込んだ十文字の中で入れ替えを行う。この事によって十文字と私と同僚の薬剤師の頭が、簡単にリフレッシュされるのだ。

かのニュートン先生にこんな質問をした人がいるという。「あなたは、リンゴが落ちたのを見て、なぜ、万有引力が発見できたのですか?」と。ニュートン先生曰く、
「By always thinking into it」 (そのことについて、寝ても覚めても考えているからじゃ。)と。

本稿は、田辺三菱製薬 医療関係者会員サイト(旧:タナベメディカルファインダー 企画:ハイブリッジ)へ連載していたものを転載しています。