十文字革命動機と方法論 (4)

高脂血症患者さんの処方例

今回は、高脂血症患者さんの処方例を参考に解説します。
処方例を薬歴ソフトで入力し、十文字プラスの処方歴を打ち出すと、下記のように打ち出されます。

横味頻消光   フルバスタチン錠20㎎ 1日1回  夕食後

1錠

14日分
幻立暈消間   カベルゴリン0.25㎎ 1日1回  朝食後 1錠
頭コレ消痒光   テプレノン 1日3回  毎食後 3錠

例の通り、フルバスタチンの十文字は「横」 「味」 「頻」 「消」 「光」となっています。ここでは、まず最初に横紋筋融解症を警戒することとなります。といっても薬局では血液検査は出来ませんので、患者さんの自覚症状をチェックします。原因不明の脱力感、倦怠感、筋肉痛などの訴えがあった場合には、服薬は一旦中止し、処方医で血液検査をしてもらうように勧めることが第一です。

「味」は味覚異常を表しています。以前、私の薬局に来られている患者さんで、介護をしている奥さんの手料理がまずくなったと、患者であるご主人がクレームをつけだしたという例を経験しました。薬のせいで味覚が少し鈍くなったようです、と説明し服薬は続行、奥さんへのクレームはなくなりました。「頻」で表現する頻尿は夜間や明け方に始まると厄介です。薬が関係あると思われた場合は、処方医と相談して薬を変更してもらうことが必要です。

ただし、十文字の意味する副作用の症状を患者さんに説明する際には、処方医との関係や患者さんに不必要な不安を喚起することになるのを防ぐ為に、説明する言葉に注意する必要もあります。ある薬剤師さんから、処方医から“当院ではスタチン系薬剤で横紋筋融解症になった患者は経験したことがないから、その件に関しては患者に質問する必要がない“といわれて困りました、という相談を受けたことがあります。患者さんにはそれとなく倦怠感や筋肉痛について聞くことが大切なのであり、特に「横紋筋融解症」などという言葉は使わなければ良いのではと解答しました。ただし、チェック結果から怪しいと思ったら、勇気をだして処方医へ報告した方が良いでしょう、とアドバイスしました。

カベルゴリンの「幻」幻覚については良い経験があります。父がパーキンソン病で16年も病んでいましたので、看病している母が幻覚について細かく報告してくれました。

パーキンソン病の薬を飲むと、父は「虫が這っていると言い出す」とか「あの世にいる人と気持ちよさそうに話を始める」というのです。これも当該メーカーさんの学術の方に確かめると、幻覚のほとんどは、そのような例だというのです。

そこで私は、当局で投薬している患者さんの介護をしている奥さんに、その話を経験談としてお話しておきました。数日後、その奥さんがやってきて、「全く同じ症状がでましたが、話を聞いていたので助かりました。もし、知らなかったら、気が変になったと思って精神科へ連れて行くところでした。今では、家族全員がその症状が出ても、温かく見守っています」といって感謝されました。

幻覚などについては、介護者に副作用の症状について具体的な例を挙げて説明した方が良いという貴重な経験になりました。

十文字を参考にして的確な指導をすると同時に、患者さんの受け取り方を考えながら説明することが薬剤師には求められているのだと思います。

一口コラム・“薬剤師”の由来

薬剤師という言葉は、明治時代に薬師にするか薬剤師にするかで論争があり、畏れ多いから、日本では薬師ではなく薬剤師にしたという逸話があります。現在でも中国や韓国では、薬剤師のことを「薬師」といっています。
その「薬師如来」は右手で「施無畏(せむい)」という印を切り、左手には薬壺を持たれています。施無畏とは、畏れを無くすことを施すという意味ですが、その畏れとは、病む人の持つ「死」への畏れとだと云われています。
「応病与薬」という言葉がありますが、服薬指導の根本は、患者さんの死への恐怖感を少しでも軽くしてあげるということなのでしょう。抑止の印といわれる薬師如来の右手の印を一度じっくり拝見してみてください。