十文字革命動機と方法論 (3)

高血圧症患者さんの処方例

例えば、こんな処方せんを持った患者さんが薬局に来ます。

<処方せん>

イミダプリル5㎎ 1日1回 朝食後 1錠 14日分
フロセミド20㎎ 1錠
ベンズブロマロン50㎎ 1錠
酒石酸ゾルピデム10㎎ 1日1回 就寝前 1錠

この処方を薬歴ソフトで入力して、十文字プラスの処方歴を打ち出すと

眠立咳Sj光 イミダプリル 5㎎ 1日1回 朝食後 1錠 14日分
味聴間Sj光  フロセミド20㎎ 1錠
劇浮頭消光  ベンズブロマロン50㎎ 1錠
緑肝依忘呼  酒石酸ゾルピデム10㎎ 1日1回 就寝前 1錠

となって、打ち出されさます。

イミダプリルを例にとると、眠(眠気)、立(立ちくらみ)、咳(咳、咽頭部違和感)、Sj (Stevens-johnson 症候群、光(光線過敏症)があるので、このことから患者さんの話を注意深く聞きながら、こちら側からの質問にも反映させよ!というものです。たった5文字(全角)でも4剤では、20文字(半角を使えば40文字)の情報が読みとることができます。

この十文字の打ち方には法則はありません。重大な副作用やその他の副作用から、患者さんが自覚できるもの、を中心に私が選び出し、私の薬局の薬剤師が共通に理解できるようにしてあります。完全では無くても、空白よりも十文字の方がはるかに優れものです。また、ここでは副作用だけからピックアップしていますが、酒石酸ゾルピデムの「緑」は、急性狭隅角緑内障の患者には禁忌!を意味し、眼圧の高い患者さんには眼科医に相談しているかを確認する警告を意味します。

平成18年年10月16日の朝日新聞では「口腔ケア・薬で誤嚥予防」として、高齢者の死亡率の上位を占める肺炎にかかわっている「誤嚥」の防止に、嚥下の機能にかかわるサブスタンスPという科学物質の分解を抑制する作用がある薬剤として、イミダプリルを例に挙げています。ACE阻害薬の「空咳」は、ひどくなると高齢者は日常生活に支障をきたしますが、咳反射と嚥下反射はこのサブスタンスPと密接な関係があり、、嚥下反射亢進として誤嚥防止・肺炎予防になるか、空咳として副作用になるかは、紙の裏表のように思えます。

また、ここの十文字から読みとれるのは、Sj(Steavens-Johnson 症候群)が2剤にあり、光線過敏症が3剤にあるということです。副作用が重なればそれが2倍になるか3倍になるのかは、これからの解明を待つしかありませんが、少なくとも、頻度は高まるのではないかと思えます。

因みに、知り合いの医師と話したのですが劇(劇症肝炎)が2剤入っている処方を先生なら飲み続けますかと尋ねたところ、それはイヤですね、と明確な反応を示してくれました。Sjでは、「薬をのんで変わったことがあったら、薬を中止して相談に来なさい。」と指示した患者さんがSjになり、裁判の結果、薬をのんで発疹が出たら、薬を中止して相談に来なさい」と言わなかったからと、医師が責任を取らされた(この場合は院内投与)例があります。

副作用として光線過敏症(複数剤にあることがあり注意!)がある処方を飲んでいる患者さんには、冬場でも「ひなたぼっこ」禁止令を出したり、ゴルフ好きなおじさんには、夏場でも長袖着用や、紫外線除けクリームの愛用を勧めています。

忘は「一過性前向性健忘」のことであり、入眠剤にはしばしば見られる副作用ですが、私自身の体験でも、薬を服用したあとに、大量の飲食をして、翌日全く覚えていない体験をし、後で息子に指摘を受けてから、入眠剤をのんだら、直ぐに床につくようにしています。

いずれにせよ、「薬」は、必要あって使用するものです。その副作用や禁忌・相互作用などのリスクを良く知って使えば、回避できるリスクや早期発見できるリスクがあります。「十文字革命」を推進する理由もここにあります。

十文字のメリットとして、副作用も処方として、同時に打ち出せることです。

私は、このことを「裏処方」と名付けています。将来。医師の電子カルテに導入されれば、処方が変わってくるでしょう。

十文字の選定について

一つの薬の持つ、多くの副作用を半角十文字(全角5文字)として選び出すのは、何の原則も必要としません。それは、薬剤師が行う「疑義照会」と同様に、その薬剤師さんが疑問に思ったら、疑義照会をしてからでないと調剤は行わないという行為に似ています。薬局の立地条件や経験や失敗によって、その時その時に選定する文字(副作用や禁忌等)が変わってきます。

私の場合、経験したある高齢女性が遭遇した事件に多くの示唆をうけました。その方は、高齢者ですが自転車でかかりつけの医院へ通っています。ある日のこと、医院からの帰り道、少し下り坂の処でスピードがつきすぎてブレーキが間に合わずに電柱に激突し、顔面からかなりの出血をして救急車で病院へ運ばれました。こんな例は一見どこにでもありそうな話ですが、この方は、実は私の薬局へ処方せんを持っていらっしゃる方で、調べてみると、眠気を伴う薬と出血が止まりにくい薬を併用していました。このことから学んだのは、患者さんの日常の生活習慣と服用している薬との関係で命にかかわる危険性があるということでした。その結果、眠、血、緑(眼圧など計ったことがないという患者さんへは、眼科で一度眼圧を計るように!)、立(たちくらみを起こして骨折し寝たきりになった老人があります)、光(オゾンホールが年々拡大し皮膚癌患者が増えているという指摘があります)などは、優先順位が上になりました。

「イミダプリル」の十文字を「眠、立、咳、Sj,光」 としたのも、高齢化社会の到来や地球環境の破壊を背景に、かかりつけ薬局の薬剤師としてピックアップすべきと考えたのです。

一口コラム・くすりについて

「くすり」の語源については、いくつかの説がありますが、その中の一つに「くすりとは、苦をすり減らすもの」といわれるものがあります。

苦の代表は、「四苦」であり、四苦とは「生老病死(しょう・ろう・びょう・し)」です。死とは、考え想像する動物である人間にとっては最大の苦しみなのですが、「老いる」ことも「病む」ことも、結局は、「死」に直結するものとして、畏れられているのです。また、生まれてきたことも、生きていることも、結局は死という結末を迎えるために、生もまた死に結びつくこととして、畏れられるのです。このことから「くすり」とは、「病むこと」を磨り減らし、「老いることを磨り減らし、「死」から少しでも遠ざかり、元気で「生きること」を願う立場から、「くすり」という言葉ができたのだとも云われています。そんな願いをかけた「くすり」によって、「副作用」などというリスクを、五番目の「苦」として、追加して欲しくないですね。薬剤師さん、がんばってください。

本稿は、田辺三菱製薬 医療関係者会員サイト(旧:タナベメディカルファインダー 企画:ハイブリッジ)へ連載していたものを転載しています。